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KYONO ART CLINIC 京野アートクリニック 仙台

コラム

in vitro activation ( IVA: 原始卵胞体外活性化法)

今回は、妊孕性温存関連の文献から、POI(早発卵巣不全)の患者さんの卵巣を凍結保存し、in vitro activation ( IVA: 原始卵胞体外活性化法)という試験的な治療を行い生児を得たという、聖マリアンナ医科大学からの報告をご紹介します。

Successful fertility preservation following ovarian tissue vitrification in patients with primary ovarian insufficiency
著者:Nao Suzuki, Nobuhito Yoshioka, Seido Takae, Yodo Sugishita, Midori Tamura, Shu Hashimoto, Yoshiharu Morimoto, and Kazuhiro Kawamura
雑誌: Human Reproduction Vol.30, No.3, p608-615, 2015

早発卵巣不全(POI)は女性の1%に存在し、高い血清FSH値と40歳未満の無月経が特徴です。無排卵に伴う不妊となり、従来は卵子提供が妊娠可能な唯一の手段でした。無月経となるものの、一部の患者においては小卵胞が残存している症例がある、ということが判ってきました。
以前、著者らはある薬剤(PTEN阻害剤とPI3K刺激剤)が、in vitro(生体外)で休眠状態にあるネズミならびにヒト原始卵胞を活性化することを発見しました。さらに、卵巣を断片化することによりHippo signal pathwayを阻害し、その下流のCCN成長因子の産生増加、さらには卵胞発育の促進につながることを発見しました。
一方で、がん患者における卵巣組織凍結保存ならびに卵巣自己移植は、抗がん剤の性腺毒性から卵巣を守り、妊孕性を温存するための治療法として欧米で行われるようになってきました。
そこで、著者らは卵巣凍結保存、断片化、さらにIVA薬剤投与を組み合わせ、さらにその卵巣組織を自己移植することで、POI患者の卵胞発育と妊娠に成功しました。以前(2013年)の報告に続き、2例目の妊娠出産に成功しています。

<内容>
・2011年8月~2013年11月にかけて、37人の不妊POI患者に対する前方視的臨床研究
・対象: 1年以上の無月経かつ血清FSH>40 mIU/ml以上(n=31)、 4ヶ月以上の無月経かつ40歳未満かつ血清FSH>35 mIU/ml以上(n=6)
・平均血清FSH 71.8±30.8 mIU/ml(35.5-197.6mIU/ml)
・腹腔鏡下に卵巣摘出が行われ、卵巣皮質が細断されガラス化法で凍結された。組織片のいくつかは病理組織検査に提供された。融解したのち、2-3片がさらに断片化され、2日間Akt stimulator下で培養された。洗浄後、卵巣皮質の断片は卵管下の漿膜に、腹腔鏡手術下に移植された。
・超音波検査と血清エストロゲン値により卵胞発育をモニター
・成熟卵胞から採卵し、IVFが施行された
・37人のうち、20人(54%)に卵胞の残存が組織学的に確認された。卵胞を認めた20人の患者のうち9人が自己移植片にて卵胞発育を示し、6人の患者から24個の卵子が採取された。組織学的検査にて残存卵胞を認めなかった17症例に対しては、患者の希望があれば卵巣自己移植を行ったが、いずれも移植後1年までの観察期間中に卵胞発育を認めなかった。
・4人に体外受精胚移植を行い、3人に妊娠判定(血清hCG)陽性となり、1人が流産、2人が生児を得た ・卵巣皮質の組織検査、およびPOIと初めて診断されてから卵巣摘出までの期間の短さが、IVAの成功を予測するのに根拠のあるパラメーターであると判明した

<解説> 著者らはガラス化法による卵巣凍結で、POI患者から成熟卵子を産生させることに成功しましたが、海外の報告では、緩慢凍結法による卵巣凍結がほとんどです。卵子凍結あるいは胚凍結は、ガラス化法が氷晶障害も少なく、手技的にもより容易で今は主流となっています。高価で特別な機械も必要とせず、早くて簡便な方法であるため、ガラス化法を選択したと著者らは述べています。
また、がん患者の妊孕性温存卵巣凍結・移植では、元の卵巣の位置に移植することもありますが、著者らは、移植場所として、高いvascularityと卵胞モニタリングのしやすさから卵管の漿膜を選択した、と述べており、移植場所としてどこが最適なのかは今後検討する必要があるとしています。
体外受精胚移植の方法としては、0.625mg-1.875mgのエストロゲンを投与し、上昇した内因性gonadotropinを下げてから外因性gonadotropin刺激を開始、胞状卵胞が認められたらモニター間隔を2-3日ごとにし、卵胞径が16mm以上または血清E2値が200pg/ml以上になるまでrFSH 150-300単位連日注射による排卵誘発を施行しました。一部症例ではpremature LH surgeを防ぐためにantagonistを使用。卵胞径が16mm以上となったらhCG 10000単位を投与。採卵後の媒精方法はICSIで、着床率を改善するため、胚は凍結保存され、その後にホルモン補充下に凍結融解胚移植を行った、としています。

このIVA治療に影響した因子として、
・卵巣摘出時の年齢はIVAの成功にあまりかかわりが無いようであったが、IVAに反応した患者において、POIの診断から卵巣摘出までの期間がより短かった
・POI37症例のうち9症例のみが血清AMH値を検出可能(多くが検出感度以下)であり、IVA治療に反応した患者群でより高いAMH値を示したが、血清AMH値はIVA治療の成功を推測するパラメーターとしてはsecondaryであった、また、AMH値が検出感度以下の症例でもIVAに反応するものが認められた
としています。
さらに興味深いことに、IVAに反応して卵胞発育を認めた群において、子宮内膜症合併の割合が44%と高頻度でした。VEGFは内膜症において血管新生を促進する最もprominentなpro-angiogenetic factorであるため、内膜症由来のVEGFがIVAの治療に貢献したのかも??と考察されていますが、症例数が少ないため、今後のさらなる検討が必要としています。

IVA治療は卵胞発育を促進するものですが、加齢による卵質低下を改善するものではなく、POIでもより若年のうちにIVAを行うことが推奨される、と著者らは述べています。

POIの患者さんにとっては、一筋の希望の光となる研究報告ですが、現段階では、あくまでも試験的な治療法である、と認識しておく必要があります。

POIでは、卵巣予備能(卵巣にある残存卵胞の貯蔵量)は年齢とともに早く消失します。将来的な展望として、POIの初期に片側の卵巣が凍結保存されれば、最終的にIVA治療に踏み切る前に、非侵襲的な不妊治療を経験することができ、さらに、未婚のPOI患者さんの場合においても、卵巣組織を凍結保存することで、彼女たちが挙児を希望するまで妊孕性を温存することが可能となる、としています。

京野アートクリニック 橋本朋子