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コラム

流産の原因と精子の役割について

Role of spermatozoa in the etiology of miscarriage 流産の原因と精子の役割について
Richard Bronson
Fertility and Sterility VOL. 105 NO. 1 / JANUARY 2016 p47-8

 妊娠の約1/7が流産に終わる。流産の原因の最も多くは染色体異常卵子に起因する胚の染色体異常であるが、他にも子宮形態異常、甲状腺機能低下症や糖尿病などの代謝異常、子宮内膜炎などの感染症、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫性疾患、血栓形成傾向、そしてより頻度は低いがカップルのどちらかに染色体転座を有すること、なども反復流産のリスクを上昇させる。しかしながら、少なくとも50%の症例において反復流産の原因は不明である。2-3回の流産であれば予後は比較的良好で、その後の流産率は25-30%であるが、流産回数が増加し原因が不明である場合、妊娠継続の可能性は低下する。

 流産において男性因子がどのように関与しているか、検討されるようになったのは最近のことである。受精した精子に染色体異常があれば流産の要因となりうる。通常射出精子の0.6%に染色体異常を認めるが、高度乏精子症においてはその割合が6%に上昇し、非閉塞性無精子症に至っては14%となる。現在の染色体核型検査では検出できない染色体微小欠失が流産に寄与している可能性が示唆されるようになり、array CGHという検査法がその異常の検出に用いられる。さらに、精子のエピジェネティックな状態や卵子に移送されるnon coding RNAの量が、流産の原因になりうることが判明してきた。加齢は精子のエピゲノムにも影響を及ぼし、最終的には胚発生にも影響することとなる。

 精子形成の過程で、核のヒストンはプロタミン1と2に置換され、二つのプロタミン比1:1からなる非常に凝縮された核になる。プロタミン1/2比の異常が精子濃度の低下、精子形態異常、精子DNA断片化の増加、受精率・着床率の低下と関連することが示されてきた。配偶子の機能や胚の発生にはDNAのメチル化の調節が重要であることも解っている。ヒト精子はさらに活性酸素のフリーラジカルの攻撃に弱く、酸化DNA損傷をおこしやすい。活性酸素はDNA塩基、なかでもグアニンを攻撃し、DNA付加体を形成する。この過程によりDNA構造が不安定化し、DNA鎖切断がおこる。このように、精子の遺伝子的完全性が傷害されることは、受精後の胚発生障害に主要な役割を果たしている可能性がある。卵子細胞質には傷害をうけたDNAを修復する能力が備わっているものの、この能力は個人差、年齢により異なる。

 活性酸素は、精子ミトコンドリアからの電子漏出、男性性器感染症により2次的に生じた白血球による産生、さらには喫煙者において発生するが、男性生殖器内に存在する抗酸化物質の欠乏などによっても生じる。男性側の加齢や精索静脈瘤の存在も精子DNA損傷の増加と相関することが示唆されている。精子には限られた細胞質量しかないため抗酸化酵素が不足しており、精子は特に酸化ストレスに弱い。そのため、男性精路から分泌される抗酸化物質に依存している。精巣上体液はいくつかの抗酸化物質を含んでおり、フリーラジカルscavenger(ビタミンC,尿酸、タウリンなど)やスーパーオキシドジスムターゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどがあげられる。

 Zidi-Jrahらは(Zidi-Jrah I et al. Fertil Steril 2016;105:58-64)、2回以上の原因不明の流産歴のあるカップル22組と、対照(正常核型かつ精液所見正常で家族歴のない、そのパートナーが1回以上の正常妊娠歴のある男性)20人について、精液所見、DNA断片化(TUNELアッセイ)、精子クロマチン凝縮異常(アニリンブルー染色)、精子染色体(18番、X、Y染色体)の異数性(FISH法)を比較検討した。総運動精子数、前進運動精子数は反復流産群の男性で有意に低く、さらに形態異常のある精子の割合も高かった。DNA断片化(TUNEL 陽性精子20%<)を示した割合も、反復流産群では45%(10/22)で、対照群の15%(3/20)に比し有意に高かった。DNA脱凝縮異常(アニリンブルー陽性)を示した精子の割合が20%<であったものが、反復流産群の男性では54%(12/22)、対照群では0.5%(1/20)であった。さらに反復流産群で染色体異常精子を認めたものが10.6%であったのに対し、対照群では1.5%であった。これらの結果は統計学的に有意であった。一方で、密度勾配遠心法により回収された不動精子の分画において、同じ射出精子の運動精子の分画よりも高頻度にDNA断片化を認めたとの研究報告がある。精子低運動率が流産に関与しているということになるのだろうか??

 これらのdataにはさらなる検討が必要である。相関関係は、因果関係のevidenceではない。この研究における症例数は少なく、より大規模なdataの收集により有意差が消える可能性もある。研究を積み重ねることによって、精子異数性、精子DNAに対する酸化ストレス、精子核DNA凝縮異常が流産の原因の一因となっていると明言できることになるだろう。


<解説>流産の主な原因として母体の加齢に起因する胚の染色体異常があることはよく知られていますが、どうやら男性因子も関与しているらしい、という論文です。精子DNAは活性酸素の影響を受けやすく傷害されやすいこと、それにより胚の発生不良や流産率の増加が引き起こされている可能性が示唆されています。加齢には抗えない部分もありますが、生活習慣を改善することでよい結果につながる可能性は十分にあります。不妊治療を成功させ元気な赤ちゃんを授かるためには、女性だけでなくパートナーである男性も「禁煙」が望ましいといえます。


京野アートクリニック 医師部 橋本 朋子