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KYONO ART CLINIC 京野アートクリニック 仙台

コラム

多嚢胞性卵巣症候群女性の体外受精における妊娠中の経過

Fertil Steril. 2016 Mar;105(3):791-797.e2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2015.11.019. Epub 2015 Dec 2.

Pregnancy outcomes in women with polycystic ovary syndrome undergoing in vitro fertilization.

Sterling L1, Liu J2, Okun N3, Sakhuja A2, Sierra S4, Greenblatt E5.

 今回の論文は多嚢胞性卵巣症候群 Polycystic ovary syndrome (PCOS) 女性に関するカナダのグループの論文です。

 PCOSは生殖年齢女性の5−10%に認められ、不妊症の重要な原因となります。PCOSは排卵障害、男性ホルモン高値、卵巣の多嚢胞が特徴です。日本の診断基準は①排卵障害があること②ホルモン値異常③超音波上の卵巣多嚢胞所見です。PCOSの女性は約半数が体重過多(日本では痩せ型の女性も多いです)とインスリン抵抗性を示し、生涯で糖尿病になる危険が5−10倍になると言われています。また、インスリン抵抗性、腹部脂肪、高血圧、脂質異常症を特徴とするメタボリックシンドロームをしばしば合併します。

 多嚢胞性卵巣症候群と不妊治療はつながりが深く、当院でも多くのPCOSを合併した患者様が通院されております。

 過去に発表されたPCOSを合併する女性の妊娠中の経過についての論文は、年齢やBMI、多胎妊娠率、出産歴、不妊期間、体外受精の有無などの患者背景がバラバラでした。患者背景によってはそれ自体が妊娠経過に影響を及ぼすため、PCOS自体が単独でどのように妊娠経過に影響しているかははっきりしませんでした。

 PCOSを合併する女性は、潜在的に代謝内分泌異常を持ち合わせています。論文では体外受精で単胎を妊娠したPCOSを合併する女性はPCOSを合併しない女性と比較して妊娠糖尿病・妊娠中の高血圧障害などの妊娠中の合併症を発症する割合が高いかどうかを調べています。

【患者背景】

患者さんはICSIを含むIVFで単胎を妊娠した女性です。71人のPCOS合併ありの女性と323人のPCOS合併なしの女性の妊娠結果についてまとめられています。患者背景に差があったのは年齢(PCOSあり< PCOSなし)、卵巣予備能(PCOSあり>PCOSなし)、卵巣過剰刺激症候群の発症率 (PCOSあり>PCOSなし)でした。

 二つのグループは糖尿病、高血圧、甲状腺機能低下症を合併している割合は同じでした。

 妊娠合併症について検討したところ、PCOSを合併する女性は、妊娠糖尿病、妊娠中の高血圧障害、早産、在胎不当過大児Large for gestational age (LGA)(在胎週数に対して出生体重が基準値より重い児)のリスクが高まりました。妊娠までの期間、産後出血、帝王切開率、新生児死亡率、低出生体重児の率、奇形率は明らかな差がありませんでした。

【単胎妊娠結果】

 胎嚢が確認できた以降の流産率は差がありませんでしたが、化学的流産率はPCOSを合併するグループが高率でした。

【妊娠の経過】

 患者背景のうち年齢、BMI、出産歴で補正した結果、妊娠糖尿病、妊妊娠中の高血圧障害、LDA、早産のリスクがPCOSを合併するグループではPCOSを合併しないグループと比較して、調整オッズ比(物事の起こりやすさ)がそれぞれ3.15倍、4.25倍、2.77倍、2.30倍になりました。

 論文の考察では、PCOSが妊娠中の合併症リスクを増加させる原因として、妊娠糖尿病についてはPCOS女性がもともと持つインスリン抵抗性に胎盤ホルモンが影響すること、妊娠中の高血圧障害については妊娠時の血管新生がうまくいかないことや男性ホルモン血症が関与しているのではないかと説明していますが、はっきりは分かっていません。早産の原因ははっきりわかっていませんが妊娠中の高血圧障害と統計上の関連性がありました。LGAについて、早産のリスクが高まれば出生体重は低くなるはずですが、データ上出生体重は増加しており妊娠糖尿病と関連があるだろうと説明されています。

 筆者は、妊娠糖尿病や妊娠中の高血圧障害などの合併症に対する対策を提案しています。日本ではまだ一般的ではありませんが、PCOSを合併した女性に、妊娠初期に糖負荷テストを行うことや、低容量アセチルサリチル酸を投与することは検討する価値があるとしています。

 最後に、PCOSはそれのみで妊娠中の合併症を起こしやすいリスクとなります。このデータはPCOSを合併する女性の妊娠時の管理に役立つだろうと筆者は締めくくっています。

 妊娠までにハードルのあるPCOS女性ですが、妊娠後も安産までに幾つかのハードルがあるようです。しかし、事前に心構えができれば、合併症を減らせたり程度を軽くしたりすることができるでしょう。今回の論文は妊娠後のことが中心で、不妊治療が成功し、当院を卒業された後のことにはなりますが、頭の片隅に留めていただければ幸いです。

京野アートクリニック 医師部 小泉 雅江