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KYONO ART CLINIC 京野アートクリニック 仙台

コラム

単一凍結融解胚移植周期におけるレトロゾール使用の効果

Pregnancy and neonatal outcomes following letrozole use in frozen-thawed single embryo transfer cycles
T. Tatsumi; S.C. Jwa; A. Kuwahara; M. Irahara; T. Kubota; H. Saito
Human Reproduction, Volume 32, Issue 6, 1 June 2017, Pages 1244-1248, https://doi.org/10.1093/humrep/dex066

 本研究は、凍結融解胚移植(FET)に際して、レトロゾール周期の自然・ホルモン補充(HRT)周期に対する効果を比較した、世界初の研究となる。
レトロゾールは生殖補助医療(ART)の卵巣刺激、なかでも低刺激法において最もよく使用されるアロマターゼ阻害薬である。しかしながら、FETにおける妊娠・新生児転帰に与える影響については、まだよく知られていない。FET(ここでは1個胚移植)に際して、レトロゾール使用周期は自然周期、HRT周期と比べ、同等の妊娠結果・新生児転帰を示すか?2012-2013年の日本産婦人科学会ART登録データを用いた後方視研究が行われた。
 単一凍結融解胚移植110722周期のうち、レトロゾール周期は2409周期、自然周期41470周期、HRT周期が66843周期であった。主要なアウトカムは、臨床妊娠率・胎児心拍陽性率・流産率・生児獲得率とした。調整後オッズ比(OR)と相対危険度(RR)は、クリニック間の相関性を補正するため、一般化推定方程式を用いて計算された。
 背景として、母体平均年齢は各群間で有意差ありであった(レトロゾール周期37.3才vs自然周期37.9才vs HRT周期36.6才➡レトロゾール周期群は自然周期群より有意に若く、HRT周期よりも有意に高齢であった)。また、レトロゾール周期においては、原因不明不妊患者の割合が高かった(69.3% vs 51.5% vs 39.4%)。自然周期・HRT周期に比べ、レトロゾール周期では胚盤胞移植の割合が多かった(85.8% vs 81.2% vs 75.7%)。また、黄体補充方法は各群間で有意に異なっていた(プロゲステロン単独、hCG単独、hCG+プロゲステロン、エストロゲン+プロゲステロンの割合。レトロゾール周期では有意にプロゲステロン単独が多く、HRT周期では有意にエストロゲン+プロゲステロンが多かった)。

 結果:レトロゾール使用周期は、自然周期・HRT周期のFETと比較して、有意に妊娠率・児心拍陽性率・生児獲得率が高く、流産率が低かった。凍結融解胚盤胞移植において、レトロゾール周期の胎児心拍陽性率に対する調整後RRは対自然周期で1.48(95%CI:1.41-1.55)、対HRT周期で1.62(95%CI:1.54-1.70)であった。同様に、レトロゾール周期の流産率に対する調整後RRは対自然周期で0.91(95%CI:0.88-0.93)、対HRT周期で0.84(95%CI:0.82-0.87)であった。

① 妊娠率:レトロゾール周期61.3% vs 自然周期36.4% vs HRT周期 33.0%
➡レトロゾール対自然、レトロゾール対HRTで有意差あり p<0.001
② 胎児心拍陽性率:レトロゾール周期56.5% vs 自然周期32.5% vs HRT周期28.8%
➡ レトロゾール対自然、レトロゾール対HRTで有意差あり p<0.001
③ 生児獲得率:レトロゾール周期51.3% vs自然周期26.4% vs HRT周期23.3%
➡ レトロゾール対自然、レトロゾール対HRTで有意差あり p<0.001
④ 流産率:レトロゾール周期16.1% vs自然周期27.0% vs HRT周期29.0%
➡レトロゾール対自然、レトロゾール対HRTで有意差あり p<0.001
⑤ 在胎週数:レトロゾール周期38.5週vs自然周期38.6週vs HRT周期38.8週
➡レトロゾール対自然で有意差なし、レトロゾール対HRTでレトロゾール周期が有意に早かった(p<0.001)
⑥ 早産(32週未満):レトロゾール周期1.6% vs自然周期0.86% vs HRT周期1.3%
➡ レトロゾール対自然、レトロゾール対HRTで有意差あり p<0.001
⑦ 平均出生時体重:レトロゾール周期3004g vs自然周期3041g vs HRT周期3062g
➡レトロゾール対自然で有意差なし、レトロゾール対HRTでレトロゾール周期が有意に小さかった(p<0.001)
⑧ 新生児の性別(男児の割合):レトロゾール周期51.0% vs自然周期51.5% vs HRT周期50.9%
➡レトロゾール対自然で有意差なし、レトロゾール対HRTで有意差ありp=0.005
⑨ 分娩様式(経腟分娩):レトロゾール周期66% vs自然周期66.2% vs HRT周期56.5%
➡レトロゾール対自然で有意差なし、レトロゾール対HRTで有意差ありp<0.001
レトロゾール周期vs HRT周期の帝王切開率に関する調整後ORは、初期胚移植周期および胚盤胞移植周期とも、有意に低かった。
⑩ 低出生体重児(SGA)の割合:各群間で有意差なし
⑪ 過大児(LGA)の割合:各群間で有意差なし
凍結胚盤胞移植におけるレトロゾール周期の自然周期に対する調整後ORはVPTD(超早産)とVLBW(超低出生体重児)について有意に高く、一方でレトロゾール周期のHRT周期に対するLGAのリスクは有意に低かった。
⑫ 先天異常の割合:各群間で有意差なし(1.4% vs 1.4% vs 1.0%)
⑬ 多胎妊娠率:各群間で同等であった。また、妊娠成績は多胎妊娠の影響を受けていなかった。

これら結果から、単一凍結融解胚移植周期において、レトロゾールの使用が臨床妊娠率・胎児心拍陽性率・生児獲得率を改善し、流産率を下げる可能性が示唆された。

 考察:レトロゾールは卵巣の顆粒膜細胞において男性ホルモンから女性ホルモン(エストロゲン)の合成を阻害することにより、血中ならびに卵巣内のエストロゲン濃度を下げる(Velasco and Juan, 2012)。低エストロゲン値がエストロゲン受容体の発現をup regulateし、結果的にエストロゲンに対する感受性を増加させ、より迅速な子宮内膜増殖、および子宮内膜血流を増加させ、着床に有利に働いた可能性が考えられうる(Hu et al., 2014)。レトロゾールの半減期は短いため(約45時間)、胚移植時には体内から一掃されており、それゆえに在胎週数や胎児発育に影響しないと考えられる(Requena et al., 2008)。

 本研究の制限としては、FETの方法(レトロゾール・自然・HRT周期)を選んだ理由(例えばPCOSのため無排卵・排卵障害があったなど)、妊娠分娩歴、過去のART不成功回数、胚の質、レトロゾールの投与期間・投与量など、妊娠成績に影響しうる事項に関する情報が欠如していることである。しかし、日本ではレトロゾールが比較的新しい排卵誘発剤であることを考慮すると、レトロゾールが用いられたのは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者よりもむしろART反復不成功などの原因不明不妊患者に多く用いられた可能性があるのではないか、と著者らは推測している。さらに、BMI、喫煙歴、原発性不妊あるいは続発性不妊、といった情報も本登録では不明であったが、これらも新生児アウトカムに影響する可能性がある。3群の黄体補充法には有意なばらつきが認められており、この違いもレトロゾール、妊娠成績、新生児アウトカムの間の相関に影響した可能性もある。今後は前方視研究、とくにランダム化比較試験により今回の結果を確かめる必要性がある、と著者らは結論している。
(婦人科 橋本)