COVID-19の男性生殖能力に与える影響とその可能性について
2019年12月、重度の呼吸器疾患が中国の武漢で最初に発生し、現在では多くの国に広がり、世界中の多くの人々に影響を及ぼしています。この疾患は世界保健機関(WHO)により”Coronavirus disease 2019″(COVID-19)と命名され、”Severe Acute Respiratory Syndrome Corona Virus” (SARS-CoV) との相同性が高いため、この新規ウイルスは”Severe Acute Respiratory Syndrome Corona Virus-2″ (SARS-CoV-2)と名付けられました。
このウイルスによる男性生殖能力に及ぼす影響と、それ以外の身近な感染症と男性不妊の関係性をまとめた論文についてレビューします。
Batiha O, Al-Deeb T, Al-zoubi E, Alsharu E. Impact of COVID-19 and other viruses on reproductive health. Andrologia 2020;52(9):1-9.
ウイルスは細胞内に入ると感染が成立し、細胞に影響を及ぼします。
SARS-CoVとSARS-CoV-2はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という細胞受容体を通じて細胞内に侵入します。その作用はSARS-CoVに比較して、SARS-CoV-2の方がより強力であるとされ、それが強い感染力に関係しているともいわれています。
ACE2受容体は肺、消化系、心臓、動脈、腎臓、精巣などに発現しており、ウイルスが体内に侵入すると、これらの組織や臓器が影響を受けるリスクがあります。
男性生殖への影響の懸念として、男性がCOVID-19にかかりやすいことがあります。約2万人のCOVID-19患者を対象としたイギリスの最近の大規模コホート研究では、男性が症例の60%を占め、男性の性別をCOVID-19の危険因子の1つであることが報告されました。また、男性は女性と比較してCOVID-19の合併症を併発するか、死亡する可能性が高いとも報告されています。
COVID-19に感染するとは発熱するケースが多く、インフルエンザと同様に精子の産生に影響を与える可能性があります。熱性疾患が精液所見への影響を報告した文献では、総精子数と運動率は、発熱後15、37日目に有意に減少し、数週間後に正常に戻ったと報告されています。また、発熱後に、精子DNA断片化の増加と射精された精子の核タンパク質組成の変化が報告されました。
また、性ホルモンであるテストステロン(T)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)を、健常者とCOVIT-19感染者で比較した研究では、Tは有意に変化しませんでしたが、TとLHの比率およびFSHとLHの比率は、COVID-19患者で有意に減少しました。これは性ホルモンを産生する精巣の機能に対して、COVID-19が影響しうることを示唆します。残念ながら、精液検査は評価されていませんので、今後の報告が期待されます。
SARS-CoVは他の合併症に加えて精巣炎を引き起こすことが報告されており、同じ感染システムを持つSARS-CoV-2が同様の合併症を引き起こす可能性も考えられます。
COVIT-19は呼吸器感染として感染することが知られていますが、ウイルスは感染者の便中にも含まれ、食中毒のように糞口感染も起こりえます。しかしながら、患者から採取した精液または精巣検体にはSARS-CoV-2は検出されず、性感染経路は可能性が低いと考えられます。
これらのようにSARS-CoV-2の男性生殖に及ぼす影響はまだまだ評価が必要であり、はっきりしたことは分かっておりません。しかし、感染のシステムや、これまでの他のウイルス感染症からくる影響、関連するデータなどから、男性生殖能力に悪影響があることが考えられます。
今後、次々と新しい報告が出てくることが予想されますので、またこちらでお伝えできればと思っております。
京野アートクリニック高輪
泌尿器科 田井俊宏