コラム

COLUMN

レーザー技術と不妊治療

 みなさまはレーザーと聞いて何を思い浮かべますでしょうか。

 レーザーディスク、ホログラム、測量計などと考えてみると私たちの日常生活にはレーザーを利用したものに溢れています。工学技術の開発には不可欠なレーザーですが医療の世界でも活躍しています。眼科や形成外科のみならず、不妊治療の現場にも活用されております。

 今回のコラムではレーザーが生殖補助医療技術にどのように関与しているかをご紹介させていただきます。

Laser technology in the ART laboratory: a narrative review
Line M. Davidsona, YaqiongLiua, Tracey Griffithsb, Celine Jonesa, Kevin Cowarda
RMB online, Volume 38, Issue 5, May 2019, Pages 725-739

 1990年代は様々な波長のレーザーが利用されておりました。しかし、紫外線のようにDNAにダメージを与えてしまう事が懸念されるなど、当初においては研究段階の域をでないものでした。現代では、研究を重ねて人間が目に見える色、可視光線(約360nm-840nm) を超える1480nm波長を使用したレーザーが主に使用されています。安全に操作をするために、これらのレーザー照射する機械は胚に影響が無いように、胚培養士がトレーニングを実施して合格したスタッフのみが操作しております。

<波長の参考図>
<実際のレーザー機器の写真>

 では、実際に当院でどのような用途で使用されているのかを、ご紹介致します。

1. 孵化補助 (AHA : Assisted Hatching)

 多精子受精や物理的な衝撃から卵子・胚を囲うことで防御の役割を果たしている透明帯ですが、凍結保存の操作をする事で硬化するとされています。着床するさいには透明帯から脱出している必要がありますので、硬化した透明帯から出やすくなるようにレーザーで一部を切除しております。過去には酸性の溶液を吹きかける方法や、ガラスの針を透明帯に突き刺して、ガラスの針を擦り合わせることで透明帯に穴を開けていました。しかし、これらの方法では胚にダメージを与えるリスクが高いため、現在ではレーザーを使用することで、素早く正確な操作が可能になっております。

緑のラインに沿って、レーザーが照射されることで透明帯が切除されます。

2. 染色体異数性検査 (胚生検: Biopsy)

当院はPGT-A特別臨床試験の実施施設となっております。胚の染色体を調べるさいに、胚盤胞のごく一部分を生検しておりますが、必要に応じてレーザーの技術を使用しております。レーザーを使用することで、迅速に無理な負荷をかけないように、胚の一部分を採取することが可能となります。

*紹介文献より引用。Cの状態でレーザーを使用して、一部分の細胞を生検する。

 最近では、AIなども不妊治療の現場において有効活用するために研究がされてきております。当院では常に最新技術を検討して取り入れていくことで、皆様にベストな結果を提供できるよう努めております。

京野アートクリニック高輪
培養部門 奥山 紀之