PGT-AとKIDScore
当院では、2020年4月より日本産婦人科学会主導で行われている、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の特別臨床研究に参加しています。
PGT-Aは、体外受精によって得られた胚の染色体数を調べる検査です。 染色体数に過不足があると、移植しても妊娠が成立しない、妊娠出来たとしてもその多くは流産や死産になることが知られています。当院におけるPGT-A特別臨床研究の詳細につきましては、こちらをご覧ください。
欧米では、PGT-Aは広く実施されており、PGT-Aに関する様々な研究結果が報告されています。その中から、タイムラプスシステムを用いて胚の情報を解析し点数化した評価法(KIDscore D5)を補助的に用いることで、PGT-Aを行った正倍数体の胚盤胞移植の結果を検討した論文を紹介させていただきます。
The KidscoreTM D5 algorithm as an additional tool to morphological assessment and PGT-A in embryo selection: a time-lapse study
JBRA Assisted Reproduction 2020;24(1):55-60
タイムラプスシステムは、培養中の受精卵の様子を連続撮影するとことで、受精や分割などの詳細な状況が分かるシステムです。当院でもタイムラプスシステムを導入し、Vitrolife社のエンブリオスコープを通常の培養で使用しています。Vitrolife社のエンブリオスコープには、胚の成長スピードやタイミング、形態学的評価などを総合して解析し、点数化(KIDscore)する解析ツールがあります。当院でもKIDscore D5 ver.3を用いており、オプションとしてご提供させていただいております。
この論文では、正倍数体の胚盤胞移植をした場合、KIDscore D5のスコアが良いと妊娠率が高く、KIDscore D5が低いと妊娠率が低くなるという結果が出ました。また、正倍数体の胚盤胞移植を従来の形態学的評価のみで行うよりも、KIDscore D5を用いて移植胚を選択する方が妊娠率が高くなっています。
KIDscoreについては、施設での培養環境や培養液などによって差が出ることも考えられるため、施設ごとに調整する必要があるとの報告もあります。当院では、KIDscore D5 ver.3と妊娠率に関して学会でも報告していますが、P G T―Aを行っていない胚盤胞移植でも高スコアおよび低スコアでは、こちらの論文と同じように相関関係が見られました。複数個の正倍数体の胚盤胞がある場合には、PGT-AとKIDscoreを共に用いることで、どの胚盤胞から移植すれば妊娠率がより高くなるか、胚を選択する際の一つの方法になり得ると考えられます。
将来、胚を観察するなどの胚に対して非侵襲的な方法で得た情報から、胚の正常・異常がわかる方法が見つかれば、PGT-Aのような胚の一部を物理的に取り出すという、少なからずリスクのある方法避けることが出来るようになるかもしれません。日々、生殖医療の分野でも研究が進んでいます。当院でも、皆様に安心・安全の生殖医療をご提供するだけでなく、最新の技術や知識に乗り遅れないように、またその一歩先を進んでいけるように、これからも努めて参ります。
京野アートクリニック高輪
培養部 岡奈緒