コラム

COLUMN

タイムラプスインキュベーターに搭載された人工知能は有用か?

2022年7月28日から29日の日程で、東京で開催された日本受精着床学会に参加し、私は下記の2演題の発表をしてきました。

●一般演題

タイトル「単一凍結融解胚盤胞移植におけるiDAScore™の有用性」

●ワークショップ「PGT-A時代に今までの胚選択を再考する」

タイトル「前核数と染色体倍数性解析を用いた受精評価」

ここでは、一般演題の内容について説明いたします。

4月から保険診療となった不妊治療ですが、その中で先進医療として認められている技術に“タイムラプスインキュベーター”というものがあります。これは、受精卵を培養する際に、カメラが内蔵された培養器(インキュベーターといいます)を使う技術で、受精卵を培養するうえで、多くのメリットをもたらしてくれます。タイムラプスを使わない場合は、胚培養士が1日1回、顕微鏡を使って受精卵を観察するのですが、この方法では受精卵の成長過程について、得られる情報量が非常に少なくなります。妊娠しやすい受精卵を選ぶためには、受精卵の形態だけではなく、成長スピードなどの成長過程の情報が非常に重要となります。タイムラプスでは、10分間隔で受精卵の写真を撮影するので、培養期間中の受精卵の様子をつぶさに観察することができます。

当院(仙台、盛岡、高輪)では、Vitrolife社のEmbryoScope+というタイムラプスインキュベーターを導入し、体外受精を行う全ての患者さまがこの機器を使える体制を整えています。最近、このEmbryoScope+に、iDAScore™(アイダスコア)という人工知能(AI)が搭載されました。iDAScore™は、妊娠しやすい受精卵をAIが自動判定してスコアリングするというシステムで、その機能の有効性は胚培養士の目による受精卵評価と同等か、もしくはそれ以上とも報告されています。スコアは1.0~9.9で付けられ、スコアが高いほうが高い妊娠率が期待できる受精卵とされています。

今回の発表は、当院のデータでiDAScore™の有効性を評価したものですが、結果として、当院で以前から行っている受精卵の形態評価にプラスしてAIによる評価を併用することで、より妊娠率が高い受精卵を優先的に選択することができることが明らかとなりました。

例えば、下の図のような見た目がほぼ同じ3個の胚盤胞(受精卵を5~6日間培養して順調に育った状態)がある場合、これまでは見た目の形態的な評価だけで判断をしていましたので、どの胚盤胞を移植しても妊娠率は変わらないと考えられていましたが、AIでiDAScore™を付けると、スコア8.6、7.7、9.3とバラツキが生じます。スコア別の妊娠率を解析した結果、当院のデータにおいてもスコアが高ければ妊娠率が高くなるということが分かりましたので、この場合はスコア9.3の胚盤胞が最も妊娠が期待できるということになります。

結果として、スコアが高い胚を優先的に移植することで、より早期に妊娠、出産が可能であることが示唆されています(妊娠までの移植回数を減らせるため、治療費の負担も抑えられます)。

一方で、当然ながら、従来の形態的な受精卵の評価も妊娠率に大きく関係しますので、AIだけに頼るのではなく、胚培養士の観察力も非常に重要となってきます。当院では、「生殖補助医療管理胚培養士」や「生殖補助医療胚培養士」といった学会認定の資格を持った経験豊富な胚培養士が複数名在籍しており、受精卵の観察についても確かな“目”を持っています。

今後は、AI技術を導入することにより、クリニックが持つ力量に、AIによる客観的なデータを取り入れることができるため、さらに高いレベルの医療を提供できるものと考え、研究を続けているところです。

タイムラプスやiDAScore™について聞いてみたいこと等がございましたら、クリニックスタッフにお声がけください。

培養部 服部裕充