コラム

COLUMN

受精卵の凍結保存期間は妊娠率や出生児に影響を及ぼすのか?

近年、凍結技術の発展により、受精卵を凍結保存し、その後融解して移植する「凍結胚移植」が主流となっています。

出産後やがん治療後の移植となると、受精卵は凍結タンクの中で中長期間、凍結保存されることになりますが、そんなに長い期間受精卵を凍結保存しておいても大丈夫なの?タンクに入れたままだと受精卵に悪影響があるんじゃないの?と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。

理論的には、凍結タンク内では半永久的に保管することが可能ですが、本当に受精卵を長い間凍結しても妊娠率や出生児への影響はないのか、今回は当院のデータをもとに論文発表した内容を簡単にご紹介したいと思います。

「受精卵の凍結保存期間が臨床成績,周産期予後および出生児発育に与える影響」

0-3ヶ月という短い凍結保存期間と比較して、それよりも長い保存期間を経て移植した受精卵の妊娠率、出生児の発育に違いはみられるか、という内容です。

対象

当院で採卵を行い、その後初めての凍結胚盤胞移植を行った2061症例と、そこから生まれた1022名の単胎児

比較項目

受精卵の生存率、妊娠成績、周産期予後、出生児の発育

凍結保存期間を、下の図のように分類し、一番短い凍結保存期間A群:0-3ヶ月とその他の群を比較しました。

比較項目画像

結果

融解後の受精卵の生存率、妊娠成績に差はありませんでした。

A群: 0-3ヶ月B群: 3-6ヶ月C群: 6-12ヶ月D群: 12-24ヶ月p
妊娠率62.3%
(687/1102)
63.2%
(517/818)
51.3%
(58/113)
67.9%
(19/28)
N.S.
流産率15.7%
(108/687)
16.1%
(83/517)
19.0%
(11/58)
15.8%
(3/19)
N.S.
生産率50.5% (556/1102)51.3%
(420/818)
40.7%
(46/113)
57.1%
(16/28)
N.S.

出生児の平均体重や身長、先天異常率、早産率、周産期合併症(妊娠高血圧症など)の発生率においても、差はありませんでした。
また、3歳までの身長・体重の推移を、厚生労働省の身体発育値と比較しましたが、同じような発育をしていたという結果が得られました。さらに、はいはいをする (9ヶ月)、走ることができる (2歳)といった運動機能、大人の言葉を理解する (1歳)、自分の名前を言える (3歳)といった言語機能も、いずれの群でも差はみられませんでした。

A群: 0-3ヶ月

B群: 3-6ヶ月

C群: 6-12ヶ月

D群: 12-24ヶ月

p

首が据わった

(3ヶ月)

90.4% (235/260)

94.6% (194/205)

86.4%

(19/22)

100.0%

(6/6)

N.S.

はいはいをする

(9ヶ月)

89.7% (174/194)

86.8% (118/136)

76.9%

(10/13)

100.0%

(4/4)

N.S.

つたい歩きをする

(1歳)

95.2%

(179/188)

96.4% (108/112)

92.9%

(13/14)

100.0%

(3/3)

N.S.

走ることができる

(2歳)

97.1% (134/138)

100.0%

(84/84)

100.0%

(9/9)

100.0%

(3/3)

N.S.

手を使わずに

階段を登れる (3歳)

96.3% (105/109)

97.1%

(66/68)

83.3%

(5/6)

100.0%

(3/3)

N.S.

A群: 0-3ヶ月

B群: 3-6ヶ月

C群: 6-12ヶ月

D群: 12-24ヶ月

p

あやすとよく笑う

(3ヶ月)

98.9% (258/261)

99.5% (204/205)

90.5%

(19/21)

100.0%

(6/6)

N.S.

話しかけるような

声を出す (9ヶ月)

98.0% (195/199)

96.7% (146/151)

100.0%

(14/14)

100.0%

(5/5)

N.S.

大人の言葉を

理解する (1歳)

95.7% (179/187)

95.5% (107/112)

92.9%

(13/14)

100.0%

(3/3)

N.S.

2語文を話す

(2歳)

85.5% (118/138)

86.9%

(73/84)

55.6%

(5/9)

100.0%

(3/3)

N.S.

自分の名前を言える (3歳)

95.4% (104/109)

98.5%

(67/68)

100.0%

(6/6)

66.7%

(2/3)

N.S.

この結果から、最長2年までの凍結保存による妊娠率、出生児発育への影響は少ないことが示唆されました。したがって、出産後やがんの治療後といった理由で、移植が遅くなってしまった場合でも、受精卵や出生児へのダメージは少ないと考えられます。

しかし、今回の検討では最長でも2年までの比較のみのため、それよりも長期間凍結保存した場合の影響については引き続き調査する必要があります。

卵子、受精卵、卵巣組織、精子それぞれの最長の凍結保存期間については、過去のコラムに掲載しておりますので、興味がある方はご覧ください。

京野アートクリニックグループは、患者様に安心して治療を受けていただけるよう、データの収集、解析に努めてまいりますので、今後のコラムも是非覗いてみてください!

京野アートクリニック仙台

培養部 柴崎世菜

関連リンク

高輪院コラムヒト卵子・胚・卵巣組織・精子で凍結保存はどのくらいの期間可能か?
https://ivf-kyono.com/column/post-1845