コラム

COLUMN

黄体ホルモンを用いた卵巣刺激法 (PPOS法)の妊娠率と出生児所見について

2022年10月8日に山形市で開催された第59回東北生殖医学会に参加してきました。コロナの影響により2年ぶりの現地開催となり、東北各地の病院からたくさんの報告がされていました。

当院からも、「Chlomadinone Acetate (CMA)によるProgestin Primed Ovarian Stimulation (PPOS)の有用性」という内容で発表してきましたので、その内容を一部ご紹介します。

当院でも採用している卵巣刺激法の一つ、Progestin Primed Ovarian Stimulation (PPOS法)は黄体ホルモン投与による卵巣刺激法です。

PPOS法については以前のコラムでもご紹介しましたが、従来のアンタゴニスト法などと比べると、比較的新しい卵巣刺激法のため、妊娠成績や出生児への影響についてはまだ不明な点が多いのが現状です。また、このPPOS法で使用するルトラール® (CMA)という薬剤の報告は特に少ないため、今回はルトラール®によるPPOS法から得られた受精卵を移植した際の妊娠成績や出生児所見について調査しました。

対象

2018年11月~2021年11月に合成黄体ホルモン製剤 (ルトラール®)を使用したPPOS法で採卵を施行した39歳以下の患者様

検討項目

卵巣過剰刺激症候群 (OHSS)発症率、早発LHサージ発症率

培養成績、凍結胚盤胞移植後の妊娠成績、出生児所見

➡従来のスタンダードな卵巣刺激法であるアンタゴニスト法 (ANT法)と比較しました。

≪結果≫

PPOS法とANT法比較(トリガー時LH、P、E2値、早発LHサージ率、卵巣過剰刺激症候群 (OHSS)発症率、ゴナドトロピン総投与量)の表
※LH:黄体化ホルモン、P:黄体ホルモン、E2:卵胞ホルモン

トリガーを投与した際のLH値、P値はアンタゴニスト法と比較してPPOS法で低い結果となりました。また、排卵の大きな要因となる早発LHサージはPPOS法では1症例も確認されませんでした。卵巣過剰刺激症候群 (OHSS)発症率は2群間で差は認められませんでした。

PPOS法とANT法比較(採卵個数、卵子の成熟率、各媒精方法による受精率、胚盤胞到達率などの培養成績)の表
※IVF:通常の体外受精、ICSI:顕微授精

採卵個数、卵子の成熟率、各媒精方法による受精率、胚盤胞到達率などの培養成績に関しては、PPOS法とアンタゴニスト法の結果は同等でした。

PPOS法とANT法比較(凍結胚盤胞移植後の妊娠率、妊娠継続率、流産率、出産率)の表
PPOS法とANT法比較(生まれた児の在胎週数や体重・身長、先天異常率)の表

凍結胚盤胞移植後の妊娠率、流産率、出産率に関しても、PPOS法もアンタゴニスト法も同等の結果となりました。さらに、移植して生まれた児の在胎週数や体重・身長、先天異常率についても、差は認められませんでした。

まとめ

  • 従来のアンタゴニスト法と比較し、PPOS法は早発LHサージを抑制し、培養成績、妊娠成績、さらに生まれた児にも影響は少ないことが示唆されました。
  • 保険診療でアンタゴニスト法を行う際は、アンタゴニスト製剤が注射薬のみであるため、PPOS法の方が、注射が苦手な患者様にとっては身体的負担が軽減される、さらに通院回数も抑えられる可能性があります。
  • アンタゴニスト製剤と比べると、PPOS法で使用されるルトラール®のような黄体ホルモン製剤は安価であるため、経済的負担を軽減するメリットも。

※今回の検討で使用したルトラール®は保険診療での採卵には使用できないため、他の種類の黄体ホルモン製剤を使う場合があります (2022年10月現在)。

治療への不安や疑問が少しでも解消できるよう、今後もコラムを通じて治療の安全性についてお伝えしたいと思います。

PPOS法について興味をもった方は、是非以前のコラムもご覧ください。

黄体ホルモンを用いた卵巣刺激法について:https://ivf-kyono.jp/column/1911/

黄体ホルモン併用卵巣刺激法:https://ivf-kyono.com/column/post-4399

京野アートクリニック仙台

培養部 柴崎 世菜