コラム

COLUMN

ICSIのためのマイクロ流体力学を用いた調整精液は密度勾配遠心法と同等の胚品質を賛成する:実用主義のランダム化臨床試験

今回は培養部抄読会でとりあげた論文を簡単に紹介いたします。

Microfluidic preparation of spermatozoa for ICSI produces similar embryo quality to density-gradient centrifugation: a pragmatic, randomized controlled trial.

Molly M. Quinn et al., Hum Reprod. 2022 Jun 30;37(7):1406-1413.

従来の精液調整方法である、swim-up法や密度勾配遠心法では、活性酸素の増加、精子DNAの損傷を促進させARTの結果に影響する可能性があることが近年の研究で示されています。また近年、遠心分離を使わずに精液から運動性、形態学的に正常な精子を選別することができるマイクロ流体デバイスが開発されています。これにより、活性酸素の増加およびDNA損傷を軽減することができると言われています。

今回の研究ではマイクロ流体デバイスの1つである、ZyMōt®を使用し、ICSIにおいて密度勾配遠心法と比べ胚の品質が向上するかどうかを調査しました。

対象

  • 2017年6月から2021年9月の間に体外受精を計画した患者
  • ZyMōt®による精液処理:159人
  • 通常の方法である密度勾配遠心法による精液処理:136人

比較項目

受精率、良好初期胚率、良好胚盤胞率、妊娠率、妊娠継続率を比較

結果

比較項目において、ZyMōt®による精液処理と密度勾配遠心法に差はなかった

密度勾配遠心法 ZyMot p
受精率 79.4% 75.2% 0.055
良好初期胚率 66.0% 68.0% 0.541
良好胚盤胞率 37.4% 37.4% 0.985
妊娠率 78/136=57.4% 82/159=51.6% 0.321
妊娠継続率 60/136=44.1% 70/159=44% 0.987

この結果から、ZyMōt®による精液処理は、密度勾配遠心法と比べて胚品質の改善に繋がりませんでしたが、結果を悪化させるものではありませんでした。

考察

今後は、精液調整にマイクロ流体力学を利用することで品質を損なうことなく作業効率を向上させ、患者さまの費用負担を削減できるか。また、精子DNAの損傷が多い、奇形精子症がある患者さまに有効であるか調査していくことが必要になると思われます。

この論文で述べられている「ZyMōt® による精液処理は、密度勾配遠心法と同等の胚品質を得られる」という点に注目すべきだと考えます。従来の精液調整方法である密度勾配遠心法は効率よく運動精子を回収することができるため、体外受精では必須の技術となっています。一方で、一部の患者さまでは精子への負荷が大きく、前述したような活性酸素の増加、精子DNAの損傷をもたらす可能性も否定できません。このような患者さまがZyMōt®を用いることで、精液処理に起因する懸念を払拭できるものと思います。

マイクロ流体技術を用いた精液処理は保険診療ではまだ使用できませんが、近いうちに先進医療として登録されることが期待されています。当院では自費診療の患者さまで、希望される方には使用することができます。詳しくは受診の際に医師または看護師にお問い合わせください。

培養部抄読会では生殖補助医療に関する情報を収集しております。今後も皆様に役立つような論文をご紹介いたします。

京野アートクリニック仙台

培養部 松尾亜門

引用論文

Molly M. Quinn , Salustiano Ribeiro, Flor Juarez-Hernandez, Rhodel K. Simbulan, Liza Jalalian, Marcelle I. Cedars, and Mitchell P. Rosen. “Microfluidic preparation of spermatozoa for ICSI produces similar embryo quality to density-gradient centrifugation: a pragmatic, randomized controlled trial” Human Reproduction, Vol.37, No.7, 2022, pp. 1406–1413