卵子または受精卵凍結による妊孕性温存の有効性

日本がん・生殖医療学会誌にて掲載されている当院の論文を紹介いたします。
今回は、その1つである卵子または受精卵凍結による妊孕性温存の有効性について、本論文と補足内容を交えながら、簡単にご紹介できればと思います。

「卵子または受精卵凍結による妊孕性温存の有効性」
-The effect of fertility preservation by oocyte or embryo cryopreservation

中村祐介 (京野アートクリニック仙台 培養部)
日本がん・生殖医療学会誌 Vol.3, No.1, 36-41,2020

この研究は、2003年1月から2018年9月の間に、当院でがん治療前に妊孕性温存を実施した86例(A群)と当院で不妊治療をされたがんサバイバーの方104例(B群)について、患者さんの背景や治療成績について比較したものです。

この研究を考える上で、重要な視点が2つあるので紹介したいと思います。

①女性の年齢と妊孕能の関係

がんであるかどうかに関わらず、女性の年齢と妊孕能は密接した関係にあります。
日本産科婦人科学会の2017年の報告においても、30歳頃から女性の妊孕能は緩やかに低下し、35歳から急激に低下を始め、38歳からさらに低下していくことがわかります。
Lesleyらは、加齢とともにAMH(卵巣に残っている原子卵胞の数を推し量るホルモン)が低下することを報告しています。
Wallace WHBらは加齢と共に卵胞数が減少することを報告しています。
女性は、加齢と共に卵子の数も質も低下していくことが元々ある、ということが非常に重要なポイントの1つです。

②がんの種類ごとにその後の妊娠率は異なる

AndersenやStensheimらの報告によれば、40歳未満で発症したがん患者のその後の妊娠のStandardized iIncidence Ratio(1から遠のくほど妊娠しづらい)は、

乳がん:0.33
白血病:0.35
子宮頸がん(StageI):0.34

ホジキンリンパ腫:0.61
非ホジキンリンパ腫:0.67
甲状腺がん:0.95

と報告しています。乳がんは生涯での妊娠率が他の疾患と比較して低いことから、化学療法・ホルモン療法前の卵子・受精卵・卵巣凍結などの妊孕性温存が有効であると考えられています。
また、血液疾患(白血病など)では迅速に治療を実施する必要性があるため、月経周期のどこからでも開始できるRandom Starthや、1周期に2回採卵するDuoStimも行われることがしばしばあります。
さらに乳がんの場合には、約8割がホルモンレセプター陽性であることから、血中E2値を抑制するためにアロマターゼ阻害薬という薬剤を使用した卵巣刺激法が広く普及しています。

ここで紹介している方法はいずれも当院でも実施可能な内容です。

当院の今回の研究においても、この①②の考えに近い状況が明らかになりました。

【平均年齢-採卵時-】

A群)35.7歳±3.5 B群)38.1歳±4.4

【採卵個数の比較】

A群)9.4±8.1 B群)5.8±6.5

【がん治療後の妊娠率の比較】

妊娠率(A群対B群):80.0%(8/10) 対 65.1%(54/83)

こうした結果から、がん治療前の妊孕性温存は、特に患者さんの年齢が若いときは効果的であり、がん克服後であっても、治療内容によっては十分に妊娠する可能性は考えられます。しかし、より患者さんの年齢が若いうちにの生殖医療を含めた計画を検討する必要があります。

また、がん治療は長期間にわたります。A群の86例の中の患者さんの中には、これから妊娠許可を得て治療を実施していくという方も多く出てきますし、そうした患者さんの長期間のフォローも一層重要になってまいります。

がんになってもママパパに、そういう患者さんの希望をかなえられるようにこれからも当院では、積極的に妊孕性温存、ならびにがんサバイバーの方々への生殖医療を実践していきたいと思います。