体内で受精した胚のPGT-A~体内受精の染色体異数性は体外受精と変わらない~
今回は培養部抄読会でとりあげた論文を簡単にご紹介致します。
子宮内の洗浄によって取り出した「体内受精」の胚にPGT-Aを行い、体外受精した胚と比較した論文です。
First PGT-A using human in vivo blastocysts recovered by uterine lavage: comparison with matched IVF embryo controls
Santiago Munné1,2,3,*, Steven T. Nakajima4, Sam Najmabadi5,6, Mark V. Sauer7, Marlane J. Angle8, José L. Rivas6, Laura V. Mendieta6, Thelma M. Macaso5, Sarthak Sawarkar1, Alexander Nadal9, Kajal Choudhary9, Camran Nezhat10, Sandra A. Carson3, and John E. Buster9,11 1CooperGenomics, 3 Regent St., S
従来、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は体外受精でしか行うことができませんでした。胚の一部を採取して検査をするため、胚を操作できる環境で行う必要があるからです。PGT-Aや胚の倍数性について、詳しくはこちらをご覧ください。
今回ご紹介する研究では、人工授精をしたあとに子宮内を洗浄することで受精した胚を取り出し、PGT-Aを行っています。比較対象は通常の体外受精(ふりかけ法、c-IVF)のみで、顕微授精(ICSI)は含まれていません。
調節卵巣刺激を行った134サイクル中56サイクルで体内から136個の胚が回収でき、その胚の正倍数性 (Euploid) 率は54%、体外受精では51%で、有意な差は見られませんでした。胚の形態については、Gardner分類での良好胚が73.3%、体外受精で43.3%。こちらは有意な差がありました。
Gardner分類は、胚盤胞の形態を分類する方法で、形態の良好さと妊娠率にはある程度の相関があることが分かっています。今回は、妊娠率については十分なサンプルサイズがないため検討されておりません。Gardner分類について、詳しくはこちらをご覧ください。
この研究では、「PGT-Aを希望したいが、体外受精を望まないカップル」に焦点が当てられ、採卵などの負担を減らすことができる、と述べられています。しかし、受精したすべての胚を子宮内洗浄で取り出せるわけではないという効率の面での課題が残されおり、実際、今回の研究では41.8%のサイクルでしか胚が回収できていません。また、体外受精と体内受精、双方で胚を検査できたのは20人と、サンプルサイズが小さいのも今後の改善の余地がある点だと思われます。
この論文で述べられている「体内から取り出した胚の染色体異数性率が体外受精と変わらない」という点も注目すべき点だと考えます。患者様の中には、卵子や胚を体外で培養することに関して、染色体へのダメージを懸念される方もいらっしゃるかと思います。もちろん、着床前診断はPGT-A以外にも種類がありますし、染色体・遺伝子に関する異常は異数性以外にも考えられます。そのため、倍数性のみの解析では、体外受精で染色体や遺伝子の異常が発生しないとは言い切れません。しかし、この論文の調査結果として、体内受精と体外受精で胚の正倍数性率が変わらないという結果がありましたので、皆様の判断材料のひとつになるかと思います。
培養部抄読会では生殖補助医療に関する情報を収集しております。皆様に役立つような論文をご紹介できればと思います。
京野アートクリニック仙台
培養部 小林由芽
関連リンク
京野アートクリニック仙台「PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)について」
https://ivf-kyono.jp/medical/pgt-a/
京野アートクリニック高輪「胚培養」
https://ivf-kyono.com/medical/art/embryo-culture/
論文引用元
https://academic.oup.com/humrep/article-pdf/35/1/70/32303976/dez242.pdf