男性不妊と精子DNA損傷について
培養部抄読会で取り上げた論文をご紹介いたします。男性不妊因子である精子DNA損傷に関する報告です。
男性不妊は精液検査の結果が基本となり治療を行っていますが、精液検査は主に形態的な特徴の検査であるため、精子の生理的な特徴については検査されていません。そのため、精液検査では異常が無くても妊娠が成立しない場合があり、精液検査の結果のみでは生殖能力の判断が不十分であると言われています。
そのため、追加の検査としてDFI検査があります。DFI検査は精子のDNAがどのくらいダメージを受けているのかを調べる方法です。ダメージを受けているDNAが多いと、DFI値が高くなります。DNAにダメージを受けている精子は、受精したとしても胚発生の過程で何らかの異常が生じる場合が多いです。
精子DNA損傷が妊娠成績に及ぼす影響に関する報告は多数ありますが、その結果にはばらつきがあります。これは、報告ごとにDNA損傷を測定する方法がバラバラであることが原因の一つとして考えられます。
この論文では147名の男性を対象とし、
- 精子DNA損傷の予測因子
- 精子DNA損傷が妊娠成績に及ぼす影響
- DNA損傷の測定方法の比較
以上の3つの項目について検討しています。今回は1と2の項目について簡単にご紹介いたします。
1.精子DNA損傷の予測因子
精液検査および生活習慣に関するアンケートを行い、その結果を高DFI群と正常群に分けた表です。
高DFI群は正常群と比較して精子運動率が低くなり、対象者の平均年齢は高くなりました。また、統計解析の結果、精子濃度よりも年齢のほうがDFI増加と強く関連していました。生活習慣などに関するアンケートでは、高DFIの人とそうでない人とで差がある項目はありませんでした。しかし、飲酒や喫煙がDFI増加に影響を及ぼすという報告もあるため、更なる検討が必要であると考察していました。
この結果から、加齢はDFI増加の有意な予測因子となり得ることが分かりました。
2.妊娠成績に及ぼす影響
タイミング療法を3サイクル行った後、妊娠に至らなかったカップルについて、人工授精を行った際の妊娠率、出産率、流産率を、夫が高DFIの場合とそうでない場合で比較しました。
妊娠率、出産率、流産率ともに差は見られませんでした。これは、もともと精液所見に一つ以上異常がある男性を対象としたため、DFIの値以外にも妊娠成績を下げる要素があったためと考察していました。
不妊の原因は男性、女性半々であると言われています。当院では男性不妊の治療にも力を入れており、必要に応じてDFI検査も行っておりますので、ぜひご活用ください。
京野アートクリニック仙台
培養部 菅原さくら
引用元
https://www.fertstertreports.org/action/showPdf?pii=S26663341%2821%2900071-4